2008年3月15日土曜日

斎藤孝講演 「IT社会と文字・活字文化」

文字・活字文化推進機構、日本経済新聞社が主催のシンポジウム「言葉の力で未来を拓く」に行ってきた。シンポジウム詳細はこちら。21日の日経新聞朝刊で記事になるということです。




基調講演の齋藤孝さんの講演を今回はまとめます。
齋藤孝さんのお話を一度聞いてみたいとは以前から思っていて、確認したかったは齋藤さんのエネルギー値。エネルギー溢れることを著書の中で主張している齋藤さんだからご本人がどのようなテンションでもってお話をされるのかに非常に興味があった。
個人的には「声に出して読みたい日本語」系よりも「座右の諭吉」とかゲーテとかの啓発系、上機嫌などの身体論系を好んで読んでいる。多作な作家ということもあるが、多くの著作を拝見させていただいている作家で、梅田望夫さんとの対談本も発売を非常に楽しみにしている。


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当日齋藤さんはスーツ姿、ピンクのネクタイで緑色のトートバックとCDラジカセを用意して登壇された。最初の印象としては思ったよりエネルギッシュではなくモゴモゴと話をする印象をもった。講演が進むうちに、「ああ、これは元気な人だな」と感じるようになった。物怖じしない態度、熱く素早く語る発話の瞬発力、壇上の一番前まで来て講演をする姿勢、明治大学の学生になって授業を受けてみたいと思う反面、かなり積極的な姿勢で授業に参加しなければならないのかな、とも感じた。
講演は当日の参加者と朗読をして進めるなど、齋藤メソッドで行われた。当日参加者には「声に出して読みたい日本語・方言」という小冊子が配られ、講演中に利用した(写真参照)


2008年3月13日 14:00~14:45 日経ホール


シンポジウム「言葉の力で未来を拓く」 基調講演2


「IT社会と文字・活字文化」

                  齋藤孝氏(明治大学教授<教育学・コミュニケーション論>)



●現代の教科書に見る知的衰退


今の学生は漢字に弱いですね。漢字に弱いと何が起きるか。文章を見た時に漢字がいっぱい並んでいるから拒否反応が起きちゃうんですね~。で、文章読みたくなくなっちゃう。


昔はですね、「立川文庫」っていうのがあったんですが。今日のこの会場に来ている皆さんでご存知の方がいるかもしれない。読んだことのある方、拍手してください!(まばらな拍手)はい、ちらほら、と(笑)


今日この会場に来ている皆さんならねー、今の小学校の教科書みたら、もうね、怒りに震えますよ!まず薄い!小学校の前期と後期が同じ厚さなんですよ。100ページに満たないんです。そんな薄さでね。小学校の頃の学力というのは学年上がるごとに倍数で増えていくから、小学校6年生はね、10倍あってもいいんですよ。でもね、現実は予算で決まっちゃうんですよ~。


私は、国が強くなるには国語教育だ、って主張しているんですけど。みなさん、『ごんぎつね』わかりますか、「ごん、おまえだったのか」の『ごんぎつね』。これ小学校の4年生ですよ。これね、1年生でいい。それと、『走れメロス』。これ何年生だと思います?中学2年生なんですよ。いいですか、中学二年生というのは走れメロスみたいな友情をあざ笑う時期でしょう?(会場笑)これはねー、小学校3年生でいいですね。


子どもたちはね、言葉の力がわかるんですよ。難易度じゃない。私勝手に理想の国語教科書っていうのを作っていて、ドストエフスキーとかニーチェとか入れてるんですけどね。小学生には名作の本当の言葉は伝わりますよ。私も塾主催して教えてますけど、わかりますよ小学生も。ただ、昔みたいにただ音読させるっていうんじゃなくて、一度意味を伝えてから原文で読みます。


今の子どもたちって、頭の回転はすごく速いですよ。会話していてもそう感じます。ただね、言葉に意味がない(会場笑)でもね、回転は速いんだから、良いものを与えればいいんですよ。そうすれば頭の回転は速いんだから。でも、教科書は貧弱そのもの。
みなさん、インターネットでも何でもいいです。「国語の教科書が危うい」というこの事実を、周囲にアナウンスしてください。


●文語と口語は連続していない


大学生でもだいたい2人で10分間討論させれば、その人の読書量がわかりますね。なぜかというと活字と日常の語彙というのは地続きではないからです。会話をさせると、その人が本を読んでいるのか、会話だけの語彙なのかがわかっちゃう。


活字っていうのは語彙が莫大にあるわけです。広辞苑にしても言葉自体は非常にたくさんある。私たち広辞苑の言葉の1割も普段使っていないでしょう。
私たちの一般の会話が成立するのは500語ぐらいかなあ。それぐらいで会話は成立しちゃうんですよ。


書き言葉と話し言葉というのは連続していないんですね。だから話し言葉だけの人は書き言葉を知らない。読書しない人は99%の日本語を使わずに生涯をすごすわけです。


私も大学で20年間教員やっているとですね、年々語彙力が下がっているのを感じます。まずひと月に本を読む学生が少ないですね。
今、新書がブームで私も新書を書いてますけど、編集者に聞くと大学生は購買層に入っていないんですね。好奇心ないと読書しないですけど、読書してないと好奇心湧かないんですよ。読書は知的好奇心の必要十分条件です。


小学生はね結構読んでいるんですよ、子供向けの文庫とかね。読んでいる平均冊数も多いです。でも、中学校に入るとばったり読まなくなる。子どものための文庫は子供向けに書かれていますが、中学生高校生になると大人向けの書籍になる。そこの小学校から中学高校までの橋渡しがないんですね。ほんとはそこを繋ぐのが教科書の役割なんですよ。


●意味の「がんゆうりつ」?


今の国語教育って、「考える」「伝える」「話す」「聞く」に力を入れています。普通に授業受けていると「読む」っていう能力は身につかないんですね。


「読む」ことなしに話された言葉は意味の「含有率」が低いんですね。今日会場に来ている皆さん、いま私の「がんゆうりつ」という言葉を聞いたときに「含有率」って漢字が頭の中にフラッシュしましたね?それ、活字文化の賜物なんですよ。
まず、活字を読む習慣がないと「含有率」って漢字変換されなくて、「がんゆうりつ」ってなって意味のわからない文章になっちゃいます。


私たちは文字で思考します。会話の中に出てくるキーワードである漢字が認識されないと、意味が理解されないんですね。思考するってことは「文字で考える」ということです。ですので、活字文化の衰えというのは人間の思考などすべてが落ちていくことを表します。


●かつては読書立国だった日本


日本はもともと読書によって立国した国です。ゲーテがドイツより売れていますし、ドストエフスキーが一番売れている国も日本ですね。ドストエフスキーの新訳なんて100万部いくらしいですよ。そういった文化がいま失われてきています。
そういった活字文化が映像文化、音楽などに流れていくんですね。音楽聴いても頭良くならないですよ。それをずーっと聞いている。


かつては電車の中で、活字を読んでいる人が一番多くて、次にマンガ、音楽、ケータイでした。が、いまでは逆になっていますね。ケータイ、音楽、マンガ、活字です。以前は日本人というのは「活字を常に追っていないと不安」という活字中毒でありましたが、今は音楽中毒、携帯中毒になってきている。


●温泉ピンポンと部活の卓球


活字を読まないっていうことは、言語の語彙が推移しないということです。活字を読まない人は温泉場のピンポン、ありますね。あれをずっと続けているようなものです。あれを毎日繰り返したところで卓球は絶対にうまくなりません。卓球がうまくなるにはどうするか、部活の卓球部ですね。その部活でやる卓球が活字文化ということです。


お互い同じ日本語を話していると思っている。ピンポンをしている人も自分は卓球をしてると思っている。けど、全然違うんですよ。卓球の部活している人は分かるんですけど、ピンポンの人とは同じじゃない。差がある。


大学の授業でやるんですが、学生4人をグループにして1人1分で「自分のベストな知的な話」をしてもらうんです。自分の人生でもっとも知的な内容の話をしてもらう。で、それを1人1分で4人繰り返す。全員が終わったら、一番知的な話をした人を「せーのっ!」で指差す。それを授業中にいろんなグループを作って繰り返す。で、一番に選ばれた人をグループごとに記録していく。
最後に集計してみると活字に慣れている、意味のある話しをできる人が上位に来ます。これは顕著に現れますね。


●活字文化と映像文化


先ほど、映像文化が活字文化に取って代わっているみたいな話をしました。今のテレビについてですが、テレビって意味のあることができないんですよ。意味の含有率が高い人がテレビに出る割合が低い。結果的に頭が良くならないです。私もテレビに出ているんですけど、意味のあることを言わせてもらえないですね。


人間、能力を伸ばすためには能動的にならないといけないんです。受身の姿勢だと身につかない。積極的な姿勢がないと身につかないんですね。自分から働きかけないと血肉にならない。自分で積極的に関わったものが身につきます。


読書っていうのは活字で記憶します。音声じゃない。本を読んで、紙のどこの場所にあるかを把握する。私はボールペンで線を引きながら、積極的な姿勢で読書をしています。で、そういうふうに読書しているから、画面が動くインターネットのスクロールって脳に蓄積させにくいんですよね。書籍はどこの場所にあったという風に記憶できますから。


私もネット情報とか昔は積極的に利用していたんですが、印刷したほうが読みやすいと思って印刷して、印刷したらホチキスで止めたほうが読みやすいかなー、と思ってホチキスで止めます。でも、ホチキスよりはバインダーで止めたほうがいいかな、と思って結果的には「これ本じゃん」ってなる(会場笑)で、結局紙媒体が便利、書籍が便利となりますね。


●読書とは生死の糧となるものである


昔は読書とは「生死の糧」となるものでした。四十になって惑いそうになった時に、「四十にして惑わず」と浮かんできて、惑わない、と(会場笑)座右の書というものがありましたね。


今は話し言葉で書く本が増えていますね。書き言葉の意味の凝縮性が失われてきていると感じています。


子どもの体力って1970年代から落ち続けているんですね。何もしないと落ち続けていく種類のものがあります。活字もその一種です。


●みんなで速音読 式亭三馬の『浮世風呂』


ここで皆さんに配布されている小冊子を出してください。ページを2枚捲っていただいて、『浮世風呂』をのページですね。今日はみなさんと速音読をします。小学生ともやっているものですが、普通よりも速く読んでいくんですね。意味の区切りごとに私の後に続いて、今日は皆さんが読んでください。文字を目に焼きつけていくのが大事です。昔の日本語ってある意味既に日本語の頂点を極めていて、漢字と日本語のコラボレーションが素晴らしい!これを体験してほしいんです。


(齋藤先生に続いて、会場速音読開始)
熟(つらつら)鑑(かんがみ)るに、錢湯(せんとう)ほど捷徑(ちかみち)の教諭(おしえ)なるはなし。
(会場の発音がバラバラでダラダラした感じ)


はい、寂しい結果になりました(会場爆笑)
かつての日本人は音読するってなると、自然に声を合わせたものですね。それともっとシャープに発音し呼吸を鋭く、あと皆さんもうちょっと姿勢を前のめりにしてください。私からみると椅子の関係もありますけど、ふんぞり返っているように見えます(笑)


(以下、『浮世風呂』の該当部分を全部読む)
はい、皆さん拍手をしていただけますか。(会場拍手)
文字と音をうまく組み合わせているのが日本語です。大和言葉と漢語の絶妙なコラボレーション、素晴らしいですね。
(この後『平家物語』も会場と速音読)


●「意味」がグローバルな通貨


私は小学生に英語を教えることに賛成ではないんです。大事なのは英語を習うことではなくて、意味のある言葉が言えるかどうかですね。
世界の共通通貨は「意味」なんです。どんな言葉も意味を含んでいれば他の言語に翻訳できますから。意味は世界の共通通貨なんですよ。そして意味あることを言えるのは活字の力があるかどうかですね。
日本人は日本語を味方につけないともったいないですね。子供の頃から日本語の素晴らしさに触れていく事が大事です。


●「渾身」Tシャツ


(幸田露伴が幸田文に蒔割りを教えたエピソードを紹介)
「畢竟、父の教えたものは技ではなくて、これ渾身ということであった」と幸田文が言っています。畢竟って言葉、もう使わないですね~。で、私は作ったんですね、これを。(トートバックからTシャツを出す。前の部分に「渾身」とプリント)「渾身Tシャツ」です!(会場笑)これ字はうちの父に書いてもらったんですけどね。これを着て塾で授業しています。言葉というのは力をくれますね、これを着ていると私が適当にできない(笑)
あと、これもあるんです。「上機嫌Tシャツ」(会場笑)後ろもあります。(と会場にバックプリントを見せる「意味もなく」とある(会場笑))これを着て街を歩けるぐらいにならないとね。


Tシャツって文字の威力を身体に纏うことができるんですよ。肝に銘ずるって「肝に掘り込む」という意味ですね。良い文章が自分に掘り込まれるんですね。


(著者注:Tシャツに関する齋藤さんの記事はこちら


●意味が分かれば心が楽


意味が分かると心が楽になるんですね。心との付き合い方が、意味があればあるほど楽になります。意味が分かって心が楽になれば頭の回転が速くなります。頭の回転が速くなると心に余裕ができます。
キレやすいのも状況に飲まれるから、意味を把握できなくて余裕がなくなるからですね。活字文化に触れて、意味を見つける能力を身につけることで、そうならないようにもなれます。


●今日の講演を2分で要約


本来なら隣の席の人と、今日の講演会の内容を2分に要約して話していただきたいんですよね。いつも大学の授業でもやっているんですけど。これやっていると日本語が強くなりますよ。そして活字の能力が高い人ほど要約がうまいですね。それでお互いに要約すると今日の講演の内容が頭に残ります!


今日はCDも持ってきたんですけど、この、『声に出して読みたい日本語』のCDを紹介したいですけど、時間だ。時間が来ちゃった。


と、いうわけで以上になります。ありがとうございました。


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